【2018年2月22日更新】電気自動車は電気をバッテリーに充電して走行します。さて、その電気はどこから来るのでしょう?もちろん発電所ですよね。自宅で太陽光パネルで発電してる!という方もいらっしゃると思いますが、それでも夜間は太陽光発電はできませんから、夜も稼働している発電所から電気を買う必要があります。
目次
発電電力量構成比と排出
発電した電気が、どんなエネルギーから発電されたのかを知るには、発電電力量構成比というものを使います。
この表は、電力会社別に2015年度のエネルギー構成をまとめたものです。原子力発電所が一部再稼働を始めた2015年度時点で、電力10社を合わせると、LNG44%、石炭31%、石油8%、水力10%、新エネルギー5%などとなっています。石油はたった8%、有害な排出のない水力や新エネルギーは計15%と、石油より多いのですね。LNG・石炭・石油を使う火力発電所からはどのような排出があるのでしょうか。前提として、電気自動車の平均的な電費を5km/kWh(大型乗用車のテスラモデルSが夏に出せる平均的電費、リーフ等ではもっと良くなります)、ガソリン車の燃費を16km/l、ガソリンの重さを750g/1l、電力10社のCO2排出量平均を627g-CO2/kWhとしましょう。根拠は下表です。
なお、電気事業連合会によるCO2排出実績の分析・評価を見ると、CO2排出量は556g-CO2/kWhと、私が計算している627gよりずっと少ないのですが、販売電力量と発電電力量のどちらで計算しているか(発電しているほうが多い)、LNG火力のライフサイクルCO2排出量を多めの599g(LNGコンバインドサイクルは474g)で見積もっていることなどが大きな原因と思われます。電気事業連合会のデータは2014年度の数字となります。では電費5km/kWhの電気自動車=発電所の排出と燃費16km/lのガソリン車の排出を比較します。
気管支炎などの原因となると考えられているSOxは、ガソリンや軽油の低硫黄化が進められているため、発電所からの排出のほうが多いですね。光化学スモッグの原因となるNOxについては、発電所のほうが若干少ないか同等といったところです。CO2は、ガソリン車の燃費に大きく左右されるのですが、e燃費のスズキやダイハツなどの平均燃費である16km/lを用いると、電気自動車のほうが排出が少ないと言えます。
ガソリン車の燃費がさらに良くなったら?
ガソリン車には、実燃費が16km/lよりよい車はハイブリッド車を筆頭としていくつか出てきていますし、ハイブリッド以外にもアイドリングストップなど様々な低燃費技術で、ガソリン車の燃費は年々向上しています。燃費が1割向上すれば、SOx・CO2の排出も1割減少します。
※2016/5/29訂正:NOxは燃費の向上に応じて減少することはありません。
電気自動車はどうでしょうか?もちろん電気自動車にも電費がありますが、実は電気自動車は効率が非常に高く、電費の改善余地というのはガソリン車ほど大きくありません。その代わり、というわけではありませんが、今後太陽光や風力を始めとする新エネルギー発電所が増設されれば、それらの発電所からのSOx・NOx排出はゼロになるだけでなく、CO2の排出も著しく少なくなります。資源エネルギー庁の長期エネルギー需給見通し:関連資料p42によれば、現在123,624GWh程度の再生可能エネルギー発電量(上の2015年度電力会社別エネルギー構成から試算)を、12年後の2030年には236,600~251,500GWhへと、2倍前後に増加させる計画です。ガソリン車の場合、すでに買った車の排出は削減できませんが、電気自動車はそのまま乗っていても自然に発電所からの排出が削減されていくのです。
同資料のp67には、2030年度における電源構成も%で示してありますので、ここから水力を9%とし、原子力を21%とすると残りの新エネルギーは14%となります。これを使って2030年度時点での電気自動車のCO2排出を予測すると、以下の表のようになります。
440g-CO2/kWh。これは、440(g/kWh) ÷ 5(km/kWh) = 88g-CO2/kmですから、ガソリン車の燃費に換算すると2320(g/l) ÷ 88(g/km) = 26km/lとなります。CO2削減への道は長いですね。まとめると、これから乗用車の電動化を進めていくことにより、また再生可能エネルギーの割合を高めていくことにより、SOxはともかくNOxやCO2の削減ができることが分かりました。
最近話題のPM2.5はどうでしょうか?ガソリン車やディーゼル車、そして火力発電所はPM2.5も排出していますが、PM2.5に関して、自動車側の環境基準はありますが、発電所側の基準がなく、排出の比較をすることができません。ただし、火力発電所は主に工業地帯においてSOx・NOxやPM2.5を排出しており、ガソリン車やディーゼル車のように住宅に近い場所でNOx・PM2.5を排出するより、人体への影響は少ないという見方もあります。
世の中の乗用車が全部電気自動車になったら電気は足りなくなる?
最後にもう一つ検証してみましょう。日本全体が2015年度時点で85%の電力を火力発電に頼っており、夏や冬のピーク時の電気が足りなくなる可能性がある現在、電気自動車の数が増えると電気は足りなくなるのでしょうか?
乗用車の年間平均走行距離を出すための自動車輸送統計年報は、平成21年度までしか自家用車のデータを含んでいないため、「旅客輸送量(人員・人キ ロ・能力人キロ・走行キロ・実車キロ)」から、営業用乗用車の実車キロ6,582,102千キロと自家用登録自動車(いわゆる普通車)の実車キロ368,919,122千キロ、そして軽乗用車の実車キロ128,585,283千キロを合計すると、平成21年度時点で全乗用車が走行した距離は504,086,507千キロ(5千億キロ)となります。残るはその時点での乗用車台数ですが、自動車検査登録情報協会の自動車保有台数データから平成21年度の乗用車の台数57,682,475台(5千7百万台)をピックアップ。
504,086,507千キロ ÷ 57,682,475台 = 8,739km。これが、平成21年度時点での、自家用・営業用を含む、乗用車(軽自動車も含みます)の、1台当たり年間平均走行距離となります。
さてこれで数字は揃いました。仮定として、電気自動車の電費を6km/kWhとしましょう。これはテスラモデルSより少し良く、リーフより少し悪いくらいの数値です。
8,739km ÷ 6km/kWh = 1456.5kWh(電気自動車1台分・1年分の電力量)
平成27年度時点では、乗用車台数は6千万台を超えていますから、
1456.5kWh x 60,000,000台 = 87,390,000,000kWh = 87,390GWh
日本全体の総発電電力量は863,817GWhでしたから、
87,390 ÷ 863,817 = 10.1%
この数字を大きいと見るか少ないと見るかは読者の方にお任せします。要するに、日本全部の乗用車を全部電気自動車に変えて、ガソリン・ディーゼルを辞めてしまうと、日本全体の消費電力量は10.1%程度増加する、ということなのです。その分の石油は輸入しなくて済むわけですし、より低価格でCO2の排出の少ないLNG火力発電や、再生可能エネルギー発電を増やすことにより、私見ですが十分に可能な数字だと思います。最後にもう一つ見てみましょう。電気事業連合会の電力統計情報より、東日本大震災前の2009年度(2009年4月から2010年3月まで)から2015年度までの、10社合計の発電電力量の推移を、2010年度基準で見てみたいと思います。
地震の年は最後の月に地震があったので発電電力量も最大になっていますね。2015年度には、そこからなんと12.5%も発電電力量が減少しています。一言で言えば、日本全部の乗用車を全部電気自動車に変えると、2010年度時点と同等くらいの発電電力量が必要になる、という感じでしょうか。